10年後にありたい姿

2010年11月、全印工連が、「全日本印刷文化典in岐阜」において、これまでの調査・研究に基づいた2020年までの印刷市場規模予測を発表した。中位予測では、2020年は市場規模が24%減、従業者数は27%減、事業所数は32%減少。しかし、10年後に生き残った印刷会社は、1社あたりの売上高12%増、従業員数8%増、1人あたりの売上高4%増となる見込み。生き残り組に入るには、「クライアントや社会が抱える諸問題を、蓄積した技術やノウハウを持って解決する『ソリューション・プロバイダー』への進化が不可欠」と。

そこから、2年半余。印刷市場規模はほぼ予測通りの推移を見せている。市場縮小のテンポはこれからさらに大きくなるだろうというのが共通した認識のようだ。その印刷業界の中で、「印刷会社の未来」=外でもない自社の未来はどうなるだろう?

JAGATのサイトに、2012年2月27日(月)JAGAT西部支社で開催された経営者・営業管理者向けセミナー「自社の未来は経営者で決まる」の講師を務められた株式会社シー・レップ代表取締役社長 北田浩之氏の公演の紹介記事があった。

一部引用させてもらうと、「成熟した産業において、その商品力が衰えているな?と感じたときに、『何を価値として提供できるのか』『顧客が発注したくなる要因とは何か』経営者は今こそ真剣に考えなければならない。」……受注産業である印刷会社は、単価も数量も自分で決めることはできない。できることはただ1つ、見積もりを出して顧客にお伺いを立てるだけである。……単価も数量も自分で決められない中で、売り上げを上げていくには、2つの方法しかない。それが『創客』と『創注』である。創客は、まだ取引していない顧客を1社でも増やすこと。それと既存顧客の訪問していない他の部署、まだ発注のない新たな担当者と取引を始めること。創注は、他社が担当している仕事を奪うことだと考えている。そして、この『創客』と『創注』を実現するための方法論がマーケティングである。……「マーケティングでは、『誰に』『何を』『どのように買っていただくか』が基本である。ここで重要なのは、これを営業担当者任せにしないことである。誰に、何を、どのように買っていただくかを経営者自らの責任で決めることが、非常に大切である。例えば、自社の得意先は誰か、自社の販売商品は何かを明確に定義することである。これらを経営者自身が決めて、現場で戦術が機能するようにマネージメントすることがポイントだと考えている。」……

さて、わが社であるが、二十数年前は、電子編集システム、DTP、CTPの導入、データベース+自動組版、デザインセクションやWEB制作セクションの設置など一定の先進性とそれなりにユニークな設備や体制で事業を行い、業界会社同様、事業拡大の時期があった。これらもお客様の事業の発展があったからこそであるが、その後は、失われた20年と言われる時代を迎え、お客様の事業環境も悪化し、また、印刷産業の成熟化による競争環境の激化とともに、業界他社と同様に困難な状況に直面している。

この十年間を振り返ると、際立った設備で差異化を進めたわけでもなく、生産性や仕入力を大きく向上させたでもなく、結局のところ、顧客業界と地域を限定し、その業界知識を背景に、お客様にとって価値の高い印刷物を提供することを追求してきたと言える。ポーターの3つの基本戦略で言えば、「差別化戦略」「集中戦略」をソフト部分で追求してきたのだ。

印刷物需要の縮小が進む現在、既存顧客業界にデジタルメディアなどの新商品を提供すべく事業内容を変化させてきてはいるが、これらも、他社との決定的な差別化は困難である。やはり、顧客業界と地域を限定することによる業界知識が決定的な優位点というのは変わらない。

印刷需要そのものが縮小する中、顧客業界と地域を限定してきた故、正しい営業戦術と営業部隊の努力があっても、縮小トレンドの外に出るのは困難であり、既存事業の売上げ縮小を防ぐのは難しい状況だ。既存顧客業界から打って出ようにも、業界知識がそのものが優位点なので、異なる顧客業界で戦うのも楽ではない。これに比べ、商圏を拡大する戦術はそれなりに有効だが、遠隔地での営業はコスト面で不利な面もある。

こう書くと、お先真っ暗、展望なしとなるが、数年前から、「変り種受注」から「新規商品の芽」を探そうということで、いくつかの新規商品・サービスについてチャレンジし、また、既存商品の売り方の革新にも挑戦してきた結果、2・3の事業については、ある程度の手ごたえを得ることができた。大きくは無いが着実に伸びている。

しかし、これらも、このままでは減少していく印刷受注をカバーするだけのポテンシャルは無い。今、もう一度、既存設備、既存技術、既存商品、既存サービス、既存営業手法、既存顧客のニーズを見直し、このなかから、「未来」に通じるものを見つけなくてはならない。

そこで、昨年の経営計画作りでは、「中期戦略」を検討してもらい、今年の経営計画作りでは、「長期戦略」の検討と、昨年の中期戦略を深化させる議論も提起した。長期戦略の検討では、あらためて、ドラッカーの4つの問い…「我々の顧客は誰か?」「我々の事業は何か?」(過去と現在)「我々の事業は何になるか?」(現在からの予測)「我々の事業は何であるべきか?」(変化への対応=イノベーション)を意識し、小企業らしくランチェスター戦略や、ブルーオーシャン戦略も使って当社にふさわしい戦略をたててもらうことにした。

『誰に』『何を』『どのように買っていただくか』と、3年後までのタイムスケジュールはなんとか確認できたと思っているが、「現場で戦術が機能するようにマネージメント」できる程度に、鮮明かつ具体的になっているとは言えない。引き続き具体化の努力をしなければならない。

10年たったらわが社はどうなっているかを予測するのは難しいが、未来の芽は、会社の内外にかかわらず、現在の中にこそある。社員のみんなには、10年たったらわが社はどうなっているかでなく、今、存在している未来の芽を見落とさず、10年たったらわが社はどうなっていたいか、自分はどの部分で役割をはたしているかを考えて欲しいと思う。

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