電子書籍の種類あれこれ(その1)

ひとくちに電子書籍と言ってもいろんな種類があります。
電子書籍版と書いてあるのに実態はPDFファイルだったり(確かにPDFでも立派な電子書籍ですが)もします。
そもそも何が電子書籍なのかという議論もあります。Webだって立派な電子書籍という立場もあるでしょう。
ここではひとまず「デジタル化された印刷物・出版刊行物もしくは、それに相当する内容をディスプレイで読めるようにパッケージ化されたもので、表示する端末にダウンロードして利用できるもの」というくらいに捉えたいと思います。
「パッケージ化」というのはWebのようにYouTubeにおいてある動画を読み込んでページを作成したりするのではなく、動画を含む、すべてのコンテンツがひとつのファイルにまとめられているという意味で、「端末にダウンロードして利用」というのはネットに接続できていない状態でも読むことができるものという意味だと思ってもらえればいいと思います。「んじゃWordで小説を書いてネットで公開すれば、それも電子書籍か?」と問われれば、それはそうだと思います。

  1. では、電子書籍には、どんな種類のものがあるでしょう?
    大きな分け方としては2通りあると思います。
  2. 1.データの形式:ファイル形式か?アプリ形式か?
    2.表示の方式:リフロー型か?ページ(画像)型か?

この2つの分類方法に沿って電子書籍の種類を2回にわたって説明しいてゆきます。

(第1回)データの形式:ファイル形式か?アプリ形式か?

【ファイル形式について】

ファイル形式というのは内容を表示するためのプログラム(ビューワーアプリ)と、表示内容のデータが別々になっているものです。
最も身近な例でいうとAdobeReaderとPDFファイルの関係があげられます。PDFを表示するためのビューワーアプリはAdobeReaderだけでなく様々なものがありますが、このPDFビューワアプリが動く端末であればPDFファイルを表示することができます。PDFビューワアプリは、パソコンはもちろん、iPhoneやiPad、Android端末やSonyのSonyReader、シャープのGALAPAGOSメディアタブレットなどにも組み込まれていますので、いろんな端末でPDFは表示ができます。
iPhoneやiPadにはiBooksというビューワーアプリが搭載されていますが、このビューワーアプリはPDFとEPUBという形式のファイルを読み込んで表示することが可能です。Android端末にも様々なビューワーアプリがあり、AldikoというビューワーアプリはEPUBという形式のファイルを表示することが可能です。
まだ日本でのサービスは開始されていませんが、海外では大きなシェアを持つAmazonのKindleストアで販売される書籍はAZWという形式のファイルですが、このファイルを読み込んで表示できるビューワーアプリは、Amazonが販売するKindleという電子書籍端末だけでなく、iPhone/iPad版、Android版、パソコン版など多様な端末に対応するものが用意されており、それがインストールされている端末ではAZWという形式のファイルを読むことができるようになります。

このようにファイル形式で電子書籍を配信する場合、対応するビューワーアプリがあれば異なる端末で表示できるというメリットがあります。また、表示に関する複雑な処理はビューワーアプリ側で行われるので、電子書籍を作る側は内容に関する部分だけを作ればよく、後述するアプリ形式に比べて制作が容易で参入障壁が低いということがあげられます。
ただし表示内容について言えば、ビューワーアプリの性能や機能の範囲内でしか実現できないため、ビューワーアプリの機能では実現できないような表現をしようと思ってもできません。ここは制約のひとつであると言えます。

【アプリ形式について】

アプリ形式というのは、iPhoneやiPad、Android端末などの端末に応じた専用のアプリの形で提供するもので、ビューワーアプリと内容のデータが一体化されているものです。村上龍さんの「歌うクジラ 」などが、その代表的な例でしょうか。
iPhoneやiPad用に開発されたものは、Android端末では利用できません。逆にAndroid端末用に開発されたものはiPhoneやiPadでは利用できません。そのかわり機能自体を作り込んで組み込むこともできるので表現の自由度はファイル形式よりも高いと言えます。開発言語を駆使して一から開発する場合は、開発できる機能は盛り込むことができるので格段に自由度は高くなります。
ただ実際にはPDFなどをベースにアプリ形式に変換するサービスやソフトを使って変換する場合も多いので、そういう場合はその変換サービスやソフトの機能の範囲に限定されることになります。
まだ日本語の電子書籍を販売するストアで、これが本命というものがないということや、AppleやAmazon、Googleなど海外のサービスが日本での電子書籍販売を本格的に初めていないということなどから、一般に商用の電子書籍という場合はアプリ形式で配信されることが多いようです。

ただアプリ制作ソフトのメーカーの動向や端末のOSの影響を受けやすいのは事実で、アプリ制作ソフトの開発がなんらかの理由で中止になり、新しいOSの上ではで読めなくなってしまったりとかする危険性はあります。なので10年後、20年後にも読めないといけないようなものは、ファイル形式でしかも形式が規格化され公開されているようなEPUB形式のものが望ましいと言われます。一定期間がすぎれば情報の鮮度が落ちてしまう雑誌などの電子化については、レイアウトの自由度が高いことなどからアプリ形式が採用されることが多いようです。

続編では「電子書籍の種類あれこれ(その2)」として、表示形式による分類について書きたいと思います。

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